ベムラフェニブの承認申請は、海外で行われた第Ⅲ相臨床試験[NO25026試験(BRIM3試験)]および国内で行われた第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験(JO28178試験)の成績に基づいています。BRIM3試験は、cobas® 4800 BRAF V600 Mutation Testを用いてBRAFV600遺伝子変異陽性と診断された化学療法歴のない転移性悪性黒色腫の患者さん675例を対象として、悪性黒色腫の標準治療薬であるダカルバジンを投与する群(対照群)とベムラフェニブを投与する群(ベムラフェニブ群)の比較試験として実施されました。その結果、ベムラフェニブ群では死亡リスクが63%減少しました(ハザード比0.37;p<0.001)。また、病勢進行または死亡(無増悪生存期間:PFS)リスクもベムラフェニブ群で74%減少し(ハザード比0.26;p<0.001)、PFS中央値は対照群の1.6カ月に対しベムラフェニブ群では5.3カ月と、3.7カ月の延長が認められました。
ベムラフェニブ群で認められた主な有害事象は、関節痛、発疹、疲労、皮膚腫瘍等でした。多くの有害事象は、処置や用量変更または休薬により投与継続が可能であったことから、ベムラフェニブの忍容性が確認されました。
JO28178試験は、cobas® 4800 BRAF V600 Mutation Test を用いてBRAFV600遺伝子変異陽性と診断された治癒切除不能・再発悪性黒色腫の患者さん11例を対象として、第Ⅰ相パートで初期安全性、第Ⅱ相パートで有効性および安全性を検討しました。その結果、日本人の悪性黒色腫患者さんにおける、ベムラフェニブの有効性と忍容性が確認されました。
cobas® 4800 BRAF V600 Mutation Testは、がん組織から抽出したゲノムDNA中のBRAFV600遺伝子変異を検出する遺伝子検査キットです。ベムラフェニブの投与前検査に対して、リアルタイムPCR法を測定原理としたBRAF遺伝子変異を検出する診断薬としては国内初となります。
個別化医療のパイオニアであるロシュ・グループの一員である中外製薬とロシュ・ダイアグノスティックスは、予後不良でアンメット・メディカルニーズの高い「悪性黒色腫」に対する新たな治療選択肢であるベムラフェニブとそのコンパニオン診断薬を、患者さんおよび医療従事者に早期に提供できるよう承認取得に向けて取り組むとともに、患者さん一人ひとりに合わせた治療選択のために、さらなる貢献を続けてまいります。
ベムラフェニブについて
ベムラフェニブは、第一三共グループのPlexxikon社が創製したがんの成長を促進させるBRAF蛋白の変異型を選択的に阻害する低分子の経口BRAFキナーゼ阻害剤です。海外では、2006年に締結されたF. ホフマン・ラ・ロシュ社[本社:スイスバーゼル市/CEO:セヴリン・シュヴァン](以下、ロシュ社)とPlexxikon社のライセンスおよび業務提携契約に基づき、共同開発が開始されました。ベムラフェニブは、米国では2011年、欧州では2012年に、成人におけるBRAFV600遺伝子変異を有する治癒切除不能または転移性悪性黒色腫に対する治療薬として承認されています。
国内では、中外製薬が2011年にロシュ社と導入契約を締結し、日本における独占的開発・販売の実施権を許諾されています。
ベムラフェニブと個別化医療
ロシュ社は、早期から個別化医療に供する薬剤に取り組んできた世界有数の企業です。ベムラフェニブが悪性黒色腫の患者さんの治療に適格か否かを判定するために、ロシュ社が開発したcobas® 4800 BRAF V600 Mutation Testが用いられます。cobas® 4800 BRAF V600 Mutation Testは、PCR法をベースとした診断薬であり、米国ではコンパニオン診断薬として承認されており、欧州でもCEマークを取得しています。ベムラフェニブは、バイオマーカーや診断薬を用いて効果が見込める患者さんに適切な薬剤を選択する個別化医療に基づいた薬剤です。
悪性黒色腫について
国内において、悪性黒色腫の全てのステージにおける新規年間罹患数は1,300~1,400人(Globocan 2012)と報告されており、年々増加傾向にあります。このうち、26.7~41.8%の患者さんでBRAF遺伝子の変異が認められると報告されています1, 2)。
BRAF蛋白は、正常細胞の増殖と生存に関与するRAS-RAF伝達系の重要な構成要素です。BRAF遺伝子の変異は、BRAF蛋白の活性化をもたらし、伝達系に異常を生じさせることによって細胞増殖と生存が制御不可能となります。
1. Uhara H., et al.: Journal of Dermatological Science 66: 240-242, 2012
2. Yamazaki N., et al.: ESMO poster presentation: Presented at the 17th ECCO - 38th ESMO - 32nd ESTRO European Cancer Congress; Amsterdam, The Netherlands, September 27-October 1, 2013
|